
※ネタバレ注意
ゲームシステムからテーマをプレイヤーに感じ取らせる作品は数多くあります。本作『MagicalCharming』もそんな作品の一つ。クロノカード・・・主人公の記憶であり、ゲームにおける選択肢となるカード。つまり、異なった行動をすればするほど、このカード(記憶)が増え選択肢・・・行動の幅が増えていく。ループゲーにおける記憶の保持は物語の重要な部分に位置します。それをカードで視覚化し、プレイヤーが“使う”・・・つまり“選び取る”という能動性を持たせる。ゲーム性を持たせるということは、物語を読む妨げになるのですが、これはそうはならない。選択肢性である上に、前の選択肢へ戻るなどシステム周りが優秀であるため、システムが妨げとならず、シナリオへの没入の一助となっています。
この作品の共通から各ヒロインの個別ルートはステディモードまでを含めて主人公の理想の集合。
主人公の理想は「段取り」を踏んで仲良くなっていき、最後に恋仲になるというもの。魔法という非日常を舞台に個別ルートはそんな彼の理想を描いていきます。胸へのコンプレックス、女の子らしさへの悩み、主人公への恋心。これらの決して重すぎないヒロインたちの悩みなどをシナリオに絡め、主人公とヒロインの関係を丁寧に描写します。ただ、この丁寧さと問題が重過ぎないこと。それが、掛け合いの起伏のなさに繋がってしまう。また、関係性が基本的に主人公とヒロインに終始しているため、閉塞感をどうしても感じさせてしまう。
「MagicalCharming!の真骨頂は、段取りを踏み外すことにあり!?」
(---lump of sugar公式サイトより)
そんな閉塞感や起伏の無さをプレイヤーがぶった切っていく。これだけ主人公の理想を描いてきたにもかかわらず、物語の真のルートに至るためには、プレイヤーはこれを否定していくこととなる。主人公の理想を壊すことにより生じるBADENDの数々。女王様ENDであったり、ハーレムENDであったり、女体化ENDであったり。真面目なENDなどはなく、遊びが見て取れるBADENDばかりを描いていく。理想を破壊する過程を様々なBADエンドを用いて描くからこそ、下手に重くなり過ぎずコミカルに描けたのではないでしょうか。
そんなコミカルさで主人公の理想をぶった切っていき、最終的にTRUEルートまで行く。これをプレイヤー自身が選び取り、閉塞的に描かれた理想を“能動的”に壊していく・・・ここに妙な気持ち良さがあります。物語を“読む”楽しみとゲームを“プレイする”楽しみを両立させる楽しさをきっちり表す。そんなところにこの作品の面白さがありますね。
面白さの理由はBADエンドの内容の豊富さだけではありません。
例えば伏線の貼り方。序盤のキャラゲーに見せることすら伏線であり、また体験版をも伏線とする。本編に収録されていないエピソードを体験版にし、本編とは異なった展開を見せる。しかもそれがTRUEルートへ繋がっていく。単純な驚きを与えるものとなっている。こういう驚き・・・物語がつながるというか収束する感覚はやはり楽しいものです。
ラストバトルは想い出の肯定。物語の最後、現実へ帰還するために今までのオリエッタとの想い出の強さを、クロノカード・・・システムを用いて演出する。つまり、共通から個別ルートの世界・・・そんな理想をぶち壊していくくせに、そこで起こったことに意味はあったのだと肯定する。ゲームシステムを用いて、プレイヤーに理想を能動的に否定させるという形を取らせるのに、物語の最後はご都合主義で終わらせている。非日常から日常へ・・・理想を否定し、現実への回帰を最後は描くものの、その理想で起きた事象に意味はあったのだと言う。そんな肯定がこの作品の味になっていると言えるでしょう。
物語を読む楽しさ、ゲームをプレイする楽しさ、どちらも追い求めた結果出来上がった作品。物語的なアプローチとゲーム的なアプローチ・・・この二つの楽しさを両立させること。これを第一に置いたからこそ、これだけ魅力的な作品が作れたましたね。
惜しむらくはオリエッタ以外のヒロインとの想い出があまりにも無意味(ヒロインとの想い出が泉のシーンで使われない、主人公と結ばれた記憶は残ってしまうのに結ばれることはない)となるのは残念だなぁと・・・。
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