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『セミラミスの天秤』 レビュー。

セミラミスの天秤

※ネタバレ注意



 「間違えちゃダメだよ。いま速水は、良いか悪いかを決めてるんじゃない。兵頭くんたちと速水自身とのこれからを決めてるんだから」(---神尾 愛生.『セミラミスの天秤』)

 とりあえず、プレイ中に感じたのは選択肢の重要性。

 多くのエロゲはコンシューマーに比べれば、進行を選択肢とテキストに頼っていることから、ゲーム性は低く、その結果として比重が置かれるのはシナリオそのものになっています。そのため、プレイをする楽しみよりも、物語を読む楽しみに比重が置かれている(ストーリー重視するプレイヤーがエロゲユーザーに多いのはこのためだと思っています)。本作では、その両立を目指すため、最初にプレイモードを選べるようになっています。バランスプレイ・・・選択肢によってエンドが分岐すると、ダイジェスティブプレイ・・・最初に選んだキャラクターのエンドに直行出来る・・・に別けられる。本作は最初にゲームとして楽しむのか?物語として楽しむのか?を選択させてくれるのです。このため、前者のバランスプレイは好感度、主人公の状態がエンドに絡んでくることから、結構、難しく・・・ゲームとして楽しめるように作られています。

 ただ、これだけではなく、シナリオ的にもそう。

 愛生と映瑠の対立を描き、そこに脇を固めるようにして、他のヒロインを配置するこの作品は、楽しければ良いで周りを引っ掻き回す立場の愛生か、それを抑止する立場の映瑠かを選択肢でプレイヤーに迫る。これにより、周囲の登場人物がそれに奔走されていく。場合によっては登場人物の生き死にまでを含めて。各エンドに至るまでを等量に描き、各エンドに重みを持たせているのが印象的です。物語を進めていくと、主人公自身が何故こういった未来を選んだのか、他に方法はなかったのかと懊悩していくことになる。この作品は事件に巻き込まれた人への考察がテキストの多くを占めるため、主人公の選択への後悔というのが分かりやすい。

 「――だが、実際あいつが現実的にやっていることは何だ?情報を集めて、言葉を操り、人の気持ちが変化『するかも知れない』流れを・・・・・・ただ作っているに過ぎないんだ。それが『運命の改変』だというなら、俺たちのしていることはみんなそれになってしまわないだろうか?」(---速水玲児.『セミラミスの天秤』)

 そしてこれが、プレイヤーが選び取ることを強く意識させる・・・選択肢と絡むことで・・・プレイヤー自身が糾弾されているような気分になってくるのが非常に興味深く、これが本作の味の一つなのでしょう。

 以上のように選択肢が非常に重要な位置を占めている作品なのですが、本作はシステム面があまり褒められたものではないのが残念。選択肢ジャンプが未読を判定しないためあまり使い物にならず、スキップも遅いため、繰り返しプレイがかなり辛くなっています。もしかして、選択肢の重要さをシナリオ以外で・・・スキップが遅すぎて選ぶのに慎重にせざるを得ないことで、表してきたのではないか?と思えてしまうほど(ロゴでのフリーズなど、システムバグが多いせいで、単にデバッグ不足ではないか?と思えてしまうため、こういった好意的な解釈ができないのが現状辛いところです)。

 視点と主人公が一致しない作品は数多あると思いますが、本作もその中の一つ。正確には、本作の物語を動かすという意味での主人公は、視点である速水ではなく、攻略ヒロインの一人、愛生であるということになります。あくまでも愛生が行動した結果、周囲の人物がどう奔走されるのか、ここに比重が置かれて描かれます。これだけ占い関連やそういった専門用語を散りばめつつも、不思議なこととかは一切起きず、嫌に現実的。それでも愛生の行動の結果が周囲を変動させ、人間関係を加速させる・・・これ自体が日常から離れているから物語になるし、人物考察にテキストの多くを割くため、実際にはありえないのですが、ありえそうであると思わせてくれる。この辺り、上手ですね。

 共通ルートがヒロインを選び取っていない・・・これから選び取るための選択を繰り返していくその性質上、この作品の選択肢を重視した性質を遺憾なく発揮できるのに比べて、個別ルートは、ヒロイン自身の問題を主軸するものの、あまり各ヒロインのシナリオで力を発揮できているようには思えませんでした。そもそも、本作は愛生以外のヒロインにほとんど比重を置いていない。例えば、映瑠の扱い。パッケージ、製品展開のさせ方と考えると、映瑠と愛生が二大ヒロインのように見える。なのに、蓋を開けてみると映瑠自身の問題はあっさり解決してしまう。それに比べて、どのルートも愛生のその後を描いている。タイトルのセミラミスが意味するところが愛生なのは、愛生ルート終盤で彼女が「庭を造る」と発言していることからもわかると思います。本作が比重を置くのは愛生であり、あくまでも愛生のその後を語っているのです。そしてそれが、本編の根幹となる設定にきっちりと絡めてあるのが良いですね。

 「そこで考え出されたのがこれ、単子(モナド)っていう。これが魂の最小の単位で、そして世界に存在する塊の総て・・・(略)・・・こんな感じで全体を観測していくと、こっちも物質と一緒で、なんと予測することが可能になるんだって!そんな莫迦な!とは思うんだけど、ちゃんと用語もある――それが。――『予定調和』っていう言葉」(---安納 搭子.『セミラミスの天秤』)

 本編冒頭にある予定調和・・・予測通りの動きの説明、そして天秤を持つのはタロットカードでは正義・・・これは力の調和を表している。また、前述したように「セミラミス」は本編で愛生を表している事を考えると、『セミラミスの天秤』・・・つまりこれ、主人公の行動が、愛生の予測から外れたのかどうかを表しているのです。

 愛生ルートが愛生と共に生きていき、ここからもこれまでの延長線上・・・この作品で言うところの「優しさに包まれた牢獄」のような日々であることは想像に難くないのはそうなのですが、他の天秤が振りきれない搭子、芙美香、映瑠のルートでも、愛生と共に生きていくことを示唆しています。

 そして面白いのが、天秤が左に振り切れる直緒エンドだけはヒロインエンドの中で毛色が異なるところです。このルートでは、愛生は自ら叔父に手を下し、主人公たちの前から去る。唯一、ヒロインエンドの中で愛生にとってバッドエンドのような形として終わるのです。また、右の方向に振り切れた「倫理の鉄槌」エンドでは、愛生は叔父を殺すまでは至れず、主人公は死ぬ・・・その後の愛生が部活から居場所がなくなるのは、想像に難くありません。

 分かりづらいのが「幻惑の果て」エンドなのですが・・・(天秤が振りきれないバッドエンド)。叔父を主人公が殺し、主人公は捕まる…主人公から見ると、どーみてもバッドエンド…なんですけど、愛生からしてみると、計画通り・・・予測通りとして描かれる。自ら手を下したのではなく、犯人を仕立て上げ、愛生本人の未来はこれからを予期させるものとなっている。

 天秤が振り切れたエンドでは、どちらも愛生は「庭」を作り損ねている。愛生にとってのバッドエンドになっている。天秤が振り切れた時こそ、予測から離れた時こそ、愛生という悪魔が作った檻から脱出できた瞬間であるという訳です・・・それが死であれなんであれ・・・。

 設定を外さないで描かれたという意味では、各エンドともに面白いと思えたのですが、ただ一つ、「幻聴」に関しては読み手の想像に任せるといった形で終わってしまったのが気になりますね。エピローグで一応の言及(『セミラミスの天秤』原作者としての搭子の声が「幻聴」と同じになっていく演出で伝えるものであるので、言及と言って良いのかはちょっと微妙かもしれませんが)はあるのですが、明確とは言えず、結局「雪井燈花」は誰になるのだ、「あなたは誰にペンネームが付いてたらよかったのかしらね?」には答えられないのが心残り。

 ただ、こういった謎的な部分を想像するのも面白いのですが、これが現実として描かれている点も面白いですね。冒頭でも搭子が『セミラミスの天秤』の語り手であることは言われていますし、EDクレジットでの原作・原案は搭子と徹底している。そんな彼女が大人びた姿になって話をするのがエピローグ。そして、全エンドを見ると始まるこのエピローグは、セーブ、ロードが不可能。たった一回きり。これが現実を表す演出として成り立っているのが分かると思います。

 こういった演出の良さは本作の随所に散りばめられているので、シナリオだけではなくそれを楽しむのも、本作の楽しみ方の一つなんだと思います。ただ、これだけの作品なのに、システム面が酷かったのだけはなんとかならなかったのかと、泣き言を残して締めたいと思います。

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27:

シナリオ面ではそこそこの満足感を得ることに成功しましたが
エロ要素が少ないことに憤り
充分にエロを入れられる土壌は出来上がっているのに……
百合判定も最後まで描いてほしかったですね

2014.07.28 22:37 #- URL[EDIT]
28:

 コメントありがとうございます。

 個人的には、このメーカーは、そこまでエロシーンに力を入れているイメージがなかったので、こんなものなのではと思いました。

 とはいえ悲鳴の多い凌辱描写とかは結構好みで、おかずとして使える作品扱いなんですよね・・・。まぁ、これは愛生を気に入ったからなだけだとは思います。愛生だけ6シーンもあるのに、他のヒロインは2シーンずつ・・・パッケージで対をなす映瑠に至っては1シーンしかないという偏りっぷり。もうちょっとエロシーンを万遍なく入れないと、愛生以外を気に入った人が不満に思うのでは?と余計な心配はしてしまいました。

2014.07.29 22:00 カナカナ #- URL[EDIT]

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