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『ひこうき雲の向こう側』 レビュー。

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※ネタバレ注意



 本作「ひこうき雲の向こう側」は日常シーンを多く入れ、かつ、それをコメディタッチで描き、飽きさせない。そんな面白さもこの作品の強みの一つですね。ただ、恋愛メインの本格ギャルゲー (---ひこうき雲の向こう側.メイキングラフスケッチ.StaffCommentより)を名乗るだけあって、シナリオのメインに据えるのは恋愛。 サブヒロインである綾を除いて、主軸となるヒロイン、もしくは主人公の現実上の問題は過去の物であり、残りは心の問題としている。そのため、山場の展開は恋愛関係だけとなるほど、削ぎ落とされているのだから、その徹底ぶりもわかるという物です。


 「俺のなかで『恋愛』なんてものは、ずいぶん前に停止したから。だからこれは俺の物語じゃない」(---ひこうき雲の向こう側.Scene.01「a day」)


 視点と主人公が一致しない作品は数多あると思いますが、本作もその中の一つ。正確には、本作の物語を動かすという意味での主人公は、視点である康司ではなく、攻略ヒロインの一人、瑛莉であるということになります。

 あくまでもこの作品は、恋愛を出来ない瑛莉が、他者の恋愛模様を観測して、恋愛を学ぶ過程を描いていく。ただ、学ぶにしても、彼女が観測対象とする人物・・・いや、彼女が恋愛を学べる人物は限られている。観測対象と成り得るのは彼女と同じく恋愛が出来ない人物・・・ヒロイン、主人公のキャラクター造形は、それぞれに理由を抱え、全員、恋愛に踏み出せない人物でないといけない。そんな彼らが恋愛に至る一歩を踏み出すまでを見ることで、彼女は恋愛を学ぶことが出来る。つまり、描かれるのは、その一歩を踏み出す彼らであり、そういった意味では、この作品のストーリーはヒロイン、もしくは主人公の成長物語であるとも言えます。

 兄を恋愛対象として見ていない美奈は勿論として、初恋の相手が妹・・・肉親になってしまったため、恋愛対象から外さなければならず、恋愛をきちんと終わらせることが出来なかったため、引き摺り続けている・・・恋愛が出来なくなっている康司。生涯、身体に消えない傷があり、そんな身体にコンプレックスがあるから、恋愛に踏み出せない、いろは。それは本編でルートはあるにせよ、サブキャラクターとして扱われた綾ですら、男嫌い…例外ではないところにこだわりを感じます。

 それでいて、シナリオ自体は各キャラクター設定を、瑛莉が学んでいくという設定を、外さずに、しっかりシナリオに反映していくのだから、その気合の入れようもわかるという物です。

 ストーリー上のメインヒロインと評される美奈ルートは、前述したとおり、一歩を踏み出すのは康司。美奈は、康司との関係が兄妹であろうが、幼馴染であろうが、ただ、康司の傍に居たいだけであり、その立ち位置を最初から最後まで貫く。そのため、妹キャラではあるものの、女に成り下がらない。兄と妹の関係を維持したまま、恋愛をしていくという結論に至る。恋愛をこれから知っていくことを示唆する物語であるため、瑛莉と観測部を続けていくことになる。

 酒の勢いから性的な関係が始まるいろはルートは、瑛莉が拒絶する「身体から始まる恋」その体現であり、自身の身体にコンプレックスがあるいろはだからこそのルートであるとも言えるし、また、瑛莉が忌避していた部分だから、瑛莉が学べるということにも繋がる。

 そう考えていくと、里沙は他のヒロインとは違うことがわかると思います。康司が「これは俺の物語ではない」と言い切った本編ルートとは異なり、彼女がヒロインとなる康司が「これは俺の物語だ」と言い切ったこのEXTRAルート。冒頭で康司に告白する彼女は、恋愛に踏み出せない彼らとは異なり、踏み出せているということになる(この彼女がどのルートでもアドバイス役となっている点は非常に興味深い)。つまり、彼女のシナリオは、本編で描くシナリオの基本的な流れには成り得ない。だからこそ、本編では描くことが出来なかったというわけです。

 テーマ上の主人公となる瑛莉のルートですが、このルートだけは未来を描いてきました。ライターさんの「シナリオ的に注目して欲しいのは、やっぱり瑛莉ルートの終盤ですかね」(ひこうき雲の向こう側.メイキングラフスケッチ.StaffCommentより)という言にもあるとおり、唯一、登場人物全員の未来を描いたこのラストシーンの出来映えは本作随一だと思います。ただ、このシーンを、多分、表面的に見せただけではダメだったと思います。

 どのルートもあくまでも、恋愛ができないキャラクターが恋愛に踏み出す一歩を最後まで貫く。そして、瑛莉がその物語を動かすし、最後まで彼女がそれを見て何を学んだか。瑛莉ルートには唯一BADENDがあり、瑛莉が振られる展開すらもある。そんな瑛莉の学ぶ姿を一貫して描いたから、最後の最後で、生涯を終えるころにやっと、好きを言えた・・・瑛莉の恋の終わりまでを描いたラストシーンに心動かされるのです。

 「これは美汐瑛莉という少女の物語だ。生まれつき恋が出来ない女の子の物語。そんな彼女はある日、学校一モテるという女の子をフッた男子を見つける。最高の女の子をフッた彼は、自分と同じで恋が出来ないのか。それともすでに恋を知っているのか。こうして美汐瑛莉の恋が始まる。行きつく先は、フられること。恋が終わることを目指して。それでも恋を知ることを始める」(---ひこうき雲の向こう側.Scene.08「ひこうき雲の空へ」)


 この作品、何もかもが「瑛莉の恋」を描く為だけにある。


 本作は、テーマが明確でわかりやすいし、それを細部に渡るまで、しっかりと貫いているから面白さに繋がっていく。キャラクターを多様に設定するまでは、どの作品であろうと出来ると思うのですが、シナリオ上でその設定を外さずに、個々にハッキリ別けて描くことが出来るかと言えば、それは別です。この作品の見事さは、そういった各々の恋愛観を確立させるまでを描いただけでも凄いのに、それすらも瑛莉の恋を描くための味付けに過ぎない、としたことにあると思うのです。

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