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『ひとなつの』 レビュー。

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※ネタバレ注意



 本作「ひとなつの」は舞台が1996年の作品であり、作風自体、妙に懐かしさを感じさせますね。システムも今時ワイド画面ではないし、スキップも若干遅い、とちょっと古臭い。意図しているかはわかりませんが、そんな一昔前を意識させるシステムと選択肢のシステムが相まって、それ自体すら、この作品の味と思わせられるほど、雰囲気作りが上手い。

 まぁ、システム自体は、一昔前と言っても、選択システムがちょっと特異なところを除けば、基本的な物は揃っているので、わりと快適。そしてこの一風変わった選択肢が良い。選択肢で、毎朝登校する際に用いるバスの中で、どのヒロインの近くに座るか選んだり、ダイヤル式の電話でどの娘に電話を掛けるのかを選んだり・・・この選んだことにより巻き起こる妙な葛藤や、やり取りが非常に興味深い。しかも、どちらも物語に沿っていない選択肢を選ぶことができ、ちゃんと選んだあとの部分をしっかり用意している・・・そんな遊び心も良いですね。

 「ひとなつの」の特徴としては、登場人物の感情がもろに伝わってくること、ですかね。

 たまに見られる設定や展開を説明することに躍起になり、人物描写が疎かになっている作品があるなか、この作品はそこに囚われない。シナリオ自体、緩急はあまりないし、奇をてらったシチュエーションでもない。物語の大まかな流れとしては、幼少期からの幼馴染との再会から始まり、7年前に禁止された夜に行われる体育祭を復活させる。ただこれだけ。ようは、注視する部分が展開や設定になるのではなくなり、登場人物の何気ない行動一つ一つが積み重なって、それが物語になっていく、とでも言えば良いのでしょうか。

 走るだけが取り柄で、勉強もできないが、嫌味のない無邪気さを全面に押し出す。今回、ハイクオソフトが主人公に宛てたのはそんな奴。

 「この街にはHEROがいる」(---ハイクオソフト OfficialWebSiteより)

 何の奇跡も持たない主人公が幼少期のあこがれの「HERO」の真似・・・自らが出来る範囲で誰かのために行動する・・・主人公自身がヒロインにとっての「HERO」になっていく。物語は、どうやらそんな主人公の「HERO」な姿に影響されて、最後はヒロイン自身が夢を叶えていくまでを。そしてそんなヒロインに影響され、主人公が自身の夢を、叶えるまでを描いているようです。ヒロインが主人公を染め上げ、主人公がヒロインを染め上げる。それをルートごとに・・・4者4様で描いた作品とも言えます。

 千春、ありすルートはシナリオの分量、結局、あこがれのHEROであった青島ヒロがどうなったのかが判明する、などからして、この作品のメインシナリオと言って良いと思います。ただ、どのルートもキャラクター設定を外さないという点では一緒。メインではない二人まで・・・細部に渡るまで丁寧に描いていることがわかります。

 ヒロインの中で、唯一、幼い頃と変わらず主人公を慕い続けた千春は、本人の引っ込み思案な性格もあってか、主人公に依存状態であることが変わらないまま、物語を終えてしまう。だからこそ、主人公と離れ離れになる・・・最後は別れで済ませる・・・自立を表すラストを描き、ようやくスタートラインに着くことを表す。

 元親友であるありすは自立しているという点では、千春とは対極で、そのため、千春ルートでは主人公が陸上の選手という夢を、転校することで叶えようとしたのに対し、ありすルートでの主人公はその夢を転校せずに叶えようとしていく。

 海雪は夢を叶えた後であり、そういった夢を叶える葛藤などは経験済みであり、だからこそ、海雪が主人公の規範となり、主人公が海雪に憧れて、教師になろうとするまでを描く。

 あこは、彼女以外のルートで主人公の将来までを扱ったのに対し、最後まであこ自身の問題だけで終始する。幼馴染ではない彼女のルートでは、主人公の将来というかその夢までは扱うことができなかった。
 
 前作「さくらさくら」もそうですが、このメーカーの作品は極力非現実を入れず、現実にありそうって思える雰囲気作りが上手いですね(まぁ、それでも、学園で人気とされているヒロインたちに好意を持たれていて、えっちできちゃうんだから、エロゲ的といえばエロゲ的ですが)。

 この「ひとなつの」もそう。作り上げた雰囲気を壊さない設定や展開の細やかさ・・・ヒロインのシナリオのパターンを、ヒロインのキャラクター設定を外さずに、ハッキリと別けている・・・もそうなのですが、登場人物の思考が現実の心理に乗っ取っている・・・突拍子もないものではない。それが「ありえそうじゃないか?」と思わせてくれる。現実の延長線上を目指し、その中での登場人物の機微を丁寧に描いていく、等身大の少年少女の純情をダイレクトに伝える雰囲気作り・・・登場人物の行動から読み取れる青臭さ、初々しさ、甘酸っぱさ…そんな恋愛を描くにあたって照れがないし、迷いもない。

 こういった“ありえそうな”を描くことがどれだけ難しいことか。

 それでも、斬新な設定、斬新なシチュエーションに囚われず、こういった作品を作り上げることができたメーカーを、ぼくは評価したい。


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